小説のようなものを・・・
「また駄目だったのよ」そういってニコルはきれいな顔をくしゃくしゃっとしかめ、同時に首を左右に何度か振った。
娘のファビエンヌが今年もまた、バカロレアに失敗したのです。
「今年こそはって私も祈るような気持ちだったんだけど・・・。駄目だわ、あの子、あんまりおつむがよくないみたい」フラソスでは高校の卒業資格に値するバカロレア試験の受験者が年々増加し、その合格者数は、同年齢(普通十七、八歳頃に受験)の全人口の半数近くに上る。
これなくしては大学やグランゼコールなどの上級学校に進むこともできなけれぽ、高学歴化と就職難が進む状況の中、就職すら困難という、まさに大切なパスポートのようなものです。
毎年六月に試験が全国一斉に実施され、筆記と共に口頭試問の比重も高く、中でも「哲学」の問題は、主要新聞にも掲載され、その設問をめぐって大人たちが議論を戦わせるというほどの高い関心を集めるものです。
そのバカロレアにファビエンヌが、また落ちた、というのです。
昨年既に一度失敗しており、日本でいうところの「デスクトップ仮想化」を経て、今年こそはと本人もそれなりに勉強していたのに、とニコルは嘆く。
そういえば、と私はあのカフェの日のことを思い出していました。